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歴史となった学歴主義と出世

2020年02月01日

 毎年恒例となりました大阪市立大学「国際ビジネス論」における私の特別講義を、先日行ってまいりました。今年も60名ほどの商学部の学生達に熱心に聴いていただき、有難い限りです。講義内容は毎回大幅に変えており、今回は思い切って国際ビジネスを日本、米国、中国の3国に絞って語ることにしました。

 これはあくまで私の長年に渡る国際ビジネス経験からの認識ですが、3国それぞれに顕著なビジネスの特徴があります。ビジネスを芸事、つまり“アート”と捉える傾向が強く、人を魅せる技を極めることをよしとする日本。意思決定は関係者が上下左右全員一致による和と空気のなせる業。これに対し米国ではビジネスは“戦闘”。ビジネスとは勝つか負けるかであり、意思決定は権限と責任にもとづく極めてシステマティックな機関行為を旨とする。また当然のごとく闘うためのスキルが重要視されており、それはMBAといった学位にも集約されている。一方、中国ではビジネスとはシンプルに“お金を稼ぐこと”であり、そこには哲学や美学といったものは感じられない。そして意思決定は組織で行うというよりは個々人の繋がりに依拠する傾向が強く、会社という経済単位は存在するものの、極めて形骸的なように思われます。

 このように特徴の違う3国がビジネスで関わるとどのような問題が起きがちで、それをどのようにして解決していくかを、当社の事例も交えながら解説しました。一通り話し終えて、さて質問タイム。「今後、中国のビジネスはまだまだ発展するのでしょうか?」とか「米国は空気を無視して物事を決めるんですか?」のような質問が来るかとワクワクしていたところ、まずは意外なご質問。「日本、米国、中国において、学歴主義というのがあるかどうかを教えてください。」
 
「え、学歴主義?しばらく聞いていない言葉だな。」そう思った私の咄嗟の答えは、「日本では昔は確かにそういうのがあったけど、今はあまりないんじゃないかな。米国の方がエリート大学のOB会なんかはつながりは強固なんだけど、だからと言ってどこかの学閥がある会社の上層部を占めているみたいなのはないと思う。ただ米国では、一流大学のMBAを持っていればいきなり幹部、みたいな学位主義はある。中国ではビジネスは金持ちの子女が仲間内でやっているという印象。学歴とかは政治では関係あるのかもしれないけど、ビジネスではないんじゃないかな。」というもの。

 しかしその後に、日本では学歴主義って今は本当にないのか考えてみました。まず何人かの知り合いに聞いてみると、全員が「うーん。ないんじゃないかな。」という回答でした。確かに私もそう思います。しかし私が社会に出た30年ほど前には、学歴主義は確かにありました。どこの会社でも出身大学別にOBチームを結成して採用活動を行っていたし、入社後も、出身大学別のポジション枠みたいなものはあったし、社内学閥パーティーみたいなものも頻繁に行われていました。

 いつの頃から、どうして変わったのでしょう。一つには、大学生が真面目に勉強をするようになったというのはあるのかもしれません。我々の頃は、まああまり褒められた話ではないですが、大学は学びの場ではなく、遊びの場だったのです。遊びというのは色々な人間関係が絡むもので、その人間関係こそが特定の大学という共通項を際立たせます。それを絆に人がつながるという連帯が生まれるのです。ところが勉強には人間性が絡まないので、そういう絆は生まれにくい。だから最近の若い人は、自分の出身校のアイデンティティーに対して極めて淡白になっているのではないかと思います。

 そして、もう一つはデジタル化です。30年前はオフィス・コンピューターなんてなかったので、人と人が仕事をしていました。そうするとどうしても、出身大学というわかりやすい共通項で括るという安易なグループ化は生まれやすい。ところが、最近は多くのビジネスマンが大方の時間をコンピューターと“対話”しながらやっているので、人と人のつながりは以前よりはるかに希薄になっています。もはや、つながるための共通項自体が必要なくなってきているのかもしれません。

 さて、更に続いてもう一つ、予想外の質問がありました。ズバリ「ある大企業に就職が決まっているのですが、出世するにはどうしたらいいでしょうか?」学歴主義がなくなったのだから、出世のカギは“実力”かと言えば、私の答えはそうではありません。「出世するラインに乗ることかな。そのためには人脈がやはり大事なんじゃないですかね。成果とか実力とかは相対的なものだから、そこに頼って出世しようとしてもうまくいかないんじゃないかな。」

 私のこの答えに、質問した学生さんはかなり意表を突かれたようでした。「実力じゃないんですか?」と念押しされたので、「何が実力かの定義次第だけど、出世ばかり考えているとかえって、気が付くと何もできることがなくなってしまったりして困ることがあるから、そのあたりのことも考えつつ、後は自分の考え方の問題でしょうね。」と答えました。すると、「そうですね。何もできなくなるのは困りますね。出世よりそっちが大事かも。」とやけに切り替えが速い。

 考えてみると、おそらく今年あたりから学生さん達はほぼ2000年代生まれ。去年までと違い、何かが大きく変わっている気がしました。もしかしたら、この世代にとって“学歴主義”とか“出世”とかは、歴史書にでも出てくるようなまったく実感の沸かない用語に聞こえるのかもしれません。だから自分にとって現実感もこだわりもなく、こんなにもカラッとこういう質問ができる。新しい時代の幕開けを見たような今年の特別講義でした。

代表取締役 CEO 奥野 政樹

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