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本当にやるのかなぁ?

2020年03月01日

2月21日(金)

今のところ、まだ中止の連絡はありません。日曜日の『大人のピアノ発表会』。折からの新型コロナウイルス騒ぎの影響で、開催予定だったイベントの中止連絡が続々と入ってきますが、今日の段階で連絡がないということは、強行するつもりなのでしょう。応援の人も含めれば100人ぐらいが一堂に会しますし、手袋をしてピアノを弾くわけにもいかないので鍵盤を介しての感染も心配されますから、中止でもおかしくなさそうですが、どうやらやるようですね。

 

いや、別に病気が怖いわけではないのです。単に不特定多数の人々の前でピアノを弾くのが怖いのです。この発表会に出るのはおそらく今回でもう2ケタ回目ぐらいになりますが、何度やっても慣れません。また、先生が変わったので今回は今までのように「デフォルトで出演ですよね」という感じでもなく、むしろ出ると言ったら先生は意外そうでした。なのになぜまた出ることにしてしまったのか。年に一回の人間鍛錬の場として逃げてはいけないものと決めてはいるものの、果たしてそこまで自分を追い込む必要があるのだろうか。自問自答が続きます。

 

私の今年の演目は、JUJUの「ラストシーン」。昨年の夏頃、久々に聴いていい曲だなと思い、楽譜を探したら弾きやすそうなものがあったので、練習を始めました。割とすぐに一通り弾けるようになって、後は結構気分よく練習をしていたのですが、やはりこのひと月くらいは調子が違います。心の奥底が緊張で震え出したようで、自分では普段通りのつもりでも、指が回らなくなったりつまづいたりすることが増えていました。今週に入ってからは、なんと途中で音が全部飛んでしまって立ち往生することもしばしば。毎年の事とは言え、本番でこれが出たらと思うとイヤな汗がじっとりと出てきます。

 

今回の問題は、演奏時間が長いことです。先生があまりうるさいことを言わない人でフルコーラスやらせてくれることになったので、制限時間いっぱいの5分ぐらいあります。出番も21番目と遅い。他の人の演奏を聞きながら待っている、この時間がまた長いのです。また、昨年の秋頃うまくいっていた時に調子に乗って、楽譜にないフレーズやエンディングを自分で作って加えたりしたのが今裏目に出ており、ここが結構引っかかるポイントになっています。

 

あーあ、本当にやるのかなぁ。やるにしても、いっそみんな休んじゃって、私だけのワンマン・リサイタルになっちゃえば気楽なのに…そんなことまで考える始末。

 

2月22日(土)

発表会前日のレッスンも何事もなく行われ、先生からは「いよいよ明日ですね。大人の人は一つ間違えるともうバラバラになっちゃうことが多いけど、聴いている方は流れで聴いているので、間違えても気づかないフリで行きましょう。」とよくわからないというか、もう何度も出ているので自分でも身にしみてわかっているアドバイスをいただく。実際のところ聴衆は、流れで聴いているどころかろくに聴いちゃいない。私だって正直そうです。自分の事で一生懸命なのであって、他人の演奏どころではないのです。しかし誰も聴いていないのだから気楽に弾けるかというと、そういうものでもないのが不思議なところ。なぜか間違えたくない、上手く弾きたいという気持ちが募るものなのです。本来、自信があれば上手く弾きたいなんて思わないでしょう。聴かせてやるという攻めの気持ちになるはずです。自信がないことをやるというのは、つくづく辛いものです。何はともあれ、発表会は中止にはならないらしい。果たして何人欠席することやら。

 

2月23日(日)

発表会当日、会場には人もまばらと思いきや、なんといつもより多くほぼ満員御礼状態。欠席者はいないとのこと。ウイルス対策で、演奏が終わると除菌シートならぬウェットティッシュを一枚渡されるらしい。ただ、どこかいつもと様子が違います。例年だと最初の方に何人かいるはずの、童謡などを四苦八苦しながら弾いているご高齢者が今回はいない。その代わりに次々と出てくるのは中高生たちで、バリバリと難しいクラシックを弾いている。なるほど、やはり高齢者の出演辞退が相次いで、大人の発表会のはずを青少年・少女のための発表会に変えたっぽい。私の順番が21番目という謎も解けました。多分、おおよそ年齢順です。

 

おかげでいつもよりレベルが格段に高い。ソナタだのノクターンだのワルツだのクラシックの難曲を約1時間半、自分の出番を待つ極度の緊張感と、若さあふれる雰囲気の中にある自らの場違い感に苛まれながら聴かなければならないのは、かなりの人生修養です。

 

そして、遂にやっと自分の順番が来ました。JUJUの曲はもしかしたら女子中高生には少しウケたりしないだろうかなどと不謹慎なことも考えつつ、汗ばむ右手をおそるおそる上の「ミ」に合わせる。音は合っているようです。後はもう、駆け抜けるように弾きます。5分はやはり長い。1番が終わったところあたりで、何となく椅子が少し右に寄りすぎていて身体がよじれている気がしましたが、何とか最後まで弾ききりました。自分ではまあ、普段の7割の出来といったところでしょうか。女子中高生たちの反応は見えません。

 

ステージを降りるとウェットティッシュを差し出されました。記念品だと思い、容器ごと持っていこうとしたら「1枚だけです」とのこと。ふっと気が抜けました。終わってしまえば、あの緊張感は何だったのかと虚無感のみが残ります。年齢順も私が最後で、その後は上級の方たちが熱演を繰り広げる中、来年は何を弾こうかなぁなどとまた性懲りもなく考えている自分を、我ながら「こいつ、本当にクレイジーかもしれない」と思う私なのでした。 

 

 

代表取締役 CEO 奥野 政樹

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