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ネガティブの時代

2020年09月01日

 オフィスの休憩スペースに、「自分のことは話すな 仕事と人間関係を劇的によくする技術」(吉原珠央著)という本が置いてありました。帯には「あなたの話はムダだらけ。」と書いてあります。社員の誰かが読んで、皆にも勧める意図で置いて行ったのでしょう。私はよくは読んでいないのですが、人間関係を上手く築きたいのなら、自分のことをごちゃごちゃと話していないで、相手の話に興味を持ってよく聞け、ということのようです。まあ確かに、世の中で功成り名を成した方のお話でとてつもなくつまらないものはよくあります。しかし一方で、自分の話が大変に魅力的な人もいます、たとえそれが自慢話であってさえも、人を惹きつけて離さない。例えば、長嶋茂雄、矢沢永吉、藤沢秀幸。こういう人たちの自慢話なら、何度同じ話を聞いても少しも飽きないし、聞くたびに新しい発見もあるのです。

 こういう人たちの自慢話は、聞くに堪えないつまらない自慢話と何が違うのか。まずは、その人達が自慢話をしている時点で今に生きていること。つまり現役バリバリということです。それであれば、昔話であっても今に輝いて聞こえます。これが今は明らかに終わっている人の、しかも昔の自慢話となると途端に「ムダ話」となってしまいます。

 次に、語られる話がオリジナルであること。その人たちの独自の考えや表現の発出であり、考え抜かれていることが大事です。これが、松下幸之助や本田宗一郎といった大物の借り物だったり、世間一般でウケている考えからのコピペであると一気に白けてしまいます。

 そして最後に、話にエンターテインメント性があるということです。つまり自分の自慢話をしながらも常に聞いている相手を楽しませることが意識されていること。自分の話に酔って悦に入っているわけでも、相手に自分の考えを押し付ける教え魔でもないということです。

 しかし最近は、こんな議論をするまでもなく自慢話をする人がいなくなりました。最後に思い浮かぶそれらしき人と言えば、サッカーの本田選手とボクシングの亀田選手くらいでしょうか。それももう随分前の話です。スケートの羽生選手にしても将棋の藤井二冠にしても、とてつもなく凄いことをやっているのに謙虚の極み。浮かれたところが一つもありません。それでもその藤井二冠に殺害予告が来たというのですから、迂闊なことを言えば命に関わる時代では仕方がないのかもしれません。最近では、勝っても謙虚を通り越してネガティブな発言を繰り返す陸上選手もいるそうです。


 ネガティブでなければ殺される時代。こんな世の中で、例えばセールスはどうすればいいのでしょうか。自社の商品を自慢気に宣伝するなどトンデモナイ話。謙虚に、まだまだ開発途上ですと言うのでも苦情になりかねません。「このような商品は大したことはないのですが、もしよろしければ、お試しいただくことは可能でしょうか?もしかしたらご迷惑をおかけすることになるかもしれませんが、そのときはお詫びいたします。」このくらいまでへりくだらなければ、気遣いに満ちたセールストークとは言えない。いや、冒頭の本の著者ならば、そもそも自社商品の宣伝などしてはいけません、お客様のお話を聞かなければいけないのです、と言うのかもしれません。しかし私の経験からすると、自慢話の一つもしない人にいくら話を聞かれても聞いてもらっている感じはしないものですが、こういう発想はもう通用しないネガティブの時代なのかもしれませんね。

 

代表取締役 CEO 奥野 政樹

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