当ウェブサイトは安全と利便性向上のためにクッキー(Cookies)を使用しています。詳細はこちら

法人向けクラウド・ネットワークサービスのPacketFabric

アイデンティティー

2022年07月01日

 アイデンティティー。よく聞く言葉ですが、意味は今一つわかりにくい。辞書を引くと、自己同一性、と出てきます。自己を他者と区別する特質。つまり自分とは何者か、どういう人間かということに対する意識、ということになるのでしょう。アイデンティティーは、往々にして自らが属する組織によって構成されます。例えば、自分はどこどこ大学出身の人間、どこどこ地方出身の人間、あるいはどこどこ国人などと規定することが多いということです。一方で、こうした組織から来るアイデンティティーを否定し、自らを何にも帰属しない個性的なものと規定したがる人もたくさんいます。しかしこういう人は、「では、あなたという人間の個性はどういうものなのか?」と質問されると、多くは答えに窮してしまいます。人間というのは本来社会的な動物であり、他者との繋がりの中で自らを規定していく存在です。個性とは、他者の集合体、つまり社会の中で規定されてこそのものであり、他者から切り離して自ら独自に存在するものではあり得ないからです。組織への帰属から生まれるアイデンティティーは、行き過ぎると組織への妄信や盲目的忠誠、果ては組織間の果てしない闘争へと繋がってしまうという悪い面もあります。しかし、他者から規制されるアイデンティティーが確立できていない人間は、どうしても周囲の環境や他人の感情に対して過剰反応してしまう。そういう人は、ややもすると「自分の自由」こそが最も大事と主張します。ところが、結局自分がどういう人間なのかをわかっていないので、周囲に振り回され、恐れ、反発し、そして最後は迎合してしまい、ちっとも自由ではないのです。アイデンティティー・ロス。これは、実はとても大きな問題です。

 現代では、アイデンティティー・ロスは以前にも増して深刻な問題となっています。ネット社会になって、組織の原型が崩れてしまったことも一つの大きな要因だと思います。SNS上で、それこそアイデンティティーを隠して、無責任な言動を繰り返す者たちが、フェイクな現実の上に心無い称賛と迎合的な批判が繰り返されるバーチャル・ワールドに浸りきっていると、実社会における自分の存在というものを規定する意味が感じられなくなってしまいます。また、家庭環境の変化というのも、人間がアイデンティティーを確立しにくくなっている大きな理由ではないでしょうか。

 人間がアイデンティティーを形成する最も初期の過程というのは、家族によるアイデンティティーの確立です。つまり「どこどこの家の子」という意識、これが、多くの人が持つ最初のアイデンティティーなのです。ここからだんだんと、所属する学校やクラブ、あるいは土地や国といったものから、より広く大きなアイデンティティーが確立されるようになってきます。一方で、所属する人間に強いアイデンティティーを醸成させる組織というのは、それだけ強い価値観を持っています。それが、今の家庭には欠けてきているのではないでしょうか。価値観よりも条件を重視する傾向があるように思います。そして、考えてみればそれは、国も、会社も、学校も、つまり社会全体がそうなのかもしれません。

 アイデンティティー・ロスをどのようにして克服するか。まあ、簡単には答えは出ません。我々の仲間にも、これと格闘している男がいます。彼は英国人の父親と日本人の母親の間に生まれましたが、小さい頃に両親が離れ離れになり、英国と日本を行ったり来たりして幼少期を過ごしたようです。どちらの環境にも馴染めず、ケンカばかりしていたとのこと。なかなかに頭が良く教養深いのですが、大人になってもどうしても組織に馴染めず、どこに行っても訴訟沙汰のようなことになってしまうようでした。そこである時、ハワイに行けば自分のようないわゆる「ハーフ」の人間もたくさんいるのではないかと思い立ち、ハワイで寿司職人の修行に挑んだとのこと。確かに、そこには「ハーフ」はたくさんいたものの、どうも彼の知性を満足させる者はおらず、失望のうちに日本に帰ってきたようです。その彼が、コロナ禍が始まった2020年、何を思ったか英国から日本まで自転車で走破するという旅を始めました。それから2年、とりあえず、ロンドンからギリシャまで到達したところで一時帰国しました。何やら本を書いたそうで、これがなかなか面白いとは言え、一冊4,000円というとんでもない高値を付けています。Amazonでは買えないアンダーグラウンドな書物なのだそうですが、旅先で出会った人々に結構売れている様子。その主張するところは、「コロナは存在しない」とか、「ワクチンは地球の過剰な人口増大を防ぐための陰謀である」とか、およそメイクセンスするものではないのですが、この異常事態下に壮大で危険な自転車旅行の第一弾をやり遂げたことは事実で、その本に登場する様々な人物との交流を通して語る彼の世界観には、説得力がある部分も確かにあります。

 そんな彼は今、自分を「冒険家兼作家」と自己規定している。どうやらアイデンティティー・ロスをいくばくか乗り越えたようです。うーん、自分探しの旅。これは果たして本当に、現代を救うアイデンティティー・ロス対策に有効なのだろうか・・。

 

代表取締役 CEO 奥野 政樹

 

ページトップ戻る