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グリッサンド

2016年03月01日

グリッサンドをご存知でしょうか?グリルドサンドイッチではありません。グリッサンドです。ピアノで鍵盤を右端から一気に左に向けてビューっと流すあの奏法です。決まると格好いいですよね。

 さて、私にとって年に一度公衆の面前で恥をかくことによって人間力を高めるための修行である「大人のピアノ発表会」も、数えてみたら今回で7回目でした。もともとは娘が幼少期にピアノを習い始めたとき、怖がってしまってレッスンが成り立たなかったため、「じゃあ、お父さんと一緒にやろうか」ということで私も習い始めたものですが、今では娘の方がずっと上手くなってしまい、私がピアノを弾く理由は最早どこにもありません。それでもしつこくまだ続けています。最初の頃は先生も社会に出たてで、子供が相手なら何とかなるものの、私みたいなピアノに全く無知なおじさんの扱いには苦慮するところも多かったようで感情を抑えきれないことも多く、正直かなりこちらは冷や汗ものでした。今は大分お互いに慣れてきて、双方息も絶え絶え、汗びっしょりという苛烈なレッスンは少なくなりました。

 それでも、年に1回の大人の発表会というのは特別で、毎年前日くらいになるとつくづく、今年こそは出演を断ればよかったかなと後悔と恐怖の念に駆られます。過去を振り返りますと、演目は時系列で①時間よ止まれ(矢沢永吉)②セパレイト・ウェイズ(ジャーニー)③愛はかげろう(雅夢)④悲しみのアンジー(ローリング・ストーンズ)⑤サイン(JuJu)⑥もうひとつの土曜日(浜田省吾)となります。どれひとつとして満足に演奏を終えたものはありません。それどころか、毎年信じられないハプニングの連続です。鍵盤がゆがんで見えてまったく音が前に進まず、文字通り時間を止めた「時間よ止まれ」、ピアノの前でどうしても最初の音が正しくつかめず、何度も違う音をポーン、ポーンと叩き続け、見に来てくれていた当社営業部長に「あれは音合わせですか?」と言われた「愛はかげろう」。(毎年のハプニングは都度このニュースレターで詳しくご報告していますので、ご興味があれば是非バック・ナンバーをご参照ください。)その度に、当の本人はまあ仕方がないと諦めも早いのですが、先生が本当に悔しそうなので、それを慰めるのにちょっと気を遣うというルーティーンになっています。

さて、今年の演目は「雨あがりの夜空に(RCサクセション)」です。よくカラオケで歌うと、似ていると言われるので、ピアノでもやってみるかなという動機から選びました。ネットで探すと楽譜は上級と中級の2種類ありました。私としては上級でいきたいところでもありましたが、先生はとにかく本番での悲劇を避けたいために、難しい楽譜を持っていくといい顔をしないので、中級にすることにしました。ただ一つ問題がありました。中級の楽譜には、この曲のポイントの一つでもあるイントロのグリッサンドが入っていないのです。これ無しでは私としては相当に物足りません。でも、ごちゃごちゃ言うと先生が怒りそうなので、とりあえずその件は隠して、中級のまま練習とレッスンを進めました。そしてある程度弾けるようになったところで、上級楽譜からイントロ部分を切り取り、当初からそれ用に空けておいた中級楽譜の冒頭スペースに切り張りです。幸い、2つの楽譜はコードが同じだったので、それでも曲は成り立つわけです。

 ある日のレッスンの初めに、恐る恐るその切り張り楽譜を取り出し、「先生、この曲本当は、イントロにこれがあるんですよ。グリッサンドっていうんですよね。」と見せてみました。先生は「どうしたんですか、これ?」と驚いたようでしたが、「いや、見つけたもので。」と偶然を装い、NGを出せない雰囲気を演出します。「じゃ、やってみてください。」ジャラララーンと鍵盤を人差し指と中指で右から左に滑らせてみます。 意外にも鍵盤というのは固く、突き指をしそうになりました。「もっと、ペダルをしっかり踏み込んで。それから、爪をちゃんと切ってくださいね。 カチカチ言いますから。」どうやらOKが出たようでした。

 仕上がりは例年より早く、本番はいつもよりは余裕がありました。アップテンプなロックの方がスローなバラードよりもごまかしもきくので楽であるということも、今更ながら気が付きました。それでもいざ会場に向かう電車の中では、頭でイメージトレーニングしようとすると鍵盤のどこに指を置くのかがイメージできずに、焦って楽譜を取り出して音を確認というのを何度も繰り返すことになります。けれども、例年はそれで混乱が極みに達するのですが、今年は楽譜から音をちゃんと確認できました。

発表会が始まって順番を待つ間も例年に比べれば鼓動の高まりは少なく、もしかしたら今年はいけるんじゃないか、などという思いもよぎりましたが、本番は結局、グリッサンドを決めたら安心してしまったのか、サビの前の準備メロディーのところで左手がアルペジオになるときに指がもつれて右手のメロディ-と合わなくなってしまいました。練習ではここはまったく意識しなくても失敗などしなくなっていたのに、やはり心の奥底が震えているのですね。自分の身体なのに、理屈ではわかっていても手が思うように動きません。それでも何とかパニックにはならずに、フィニッシュまでは持っていくことができました。

 先生は相変わらず悔しそうでしたが、「去年よりは良かったですね。最後もちゃんと強い音で決まってホっとしました。」と言ってくれました。どうも先生は、イントロのグリッサンドなんかよりエンディングの方が気になっていたようです。

高校生になった息子がバンドでギターを弾き始め、最近はBOOWYなんかもやっているので、来年は「マリオネット」でも弾いて息子と共演できるようにしようかな、などとも思っていましたが、探してみたらピアノ楽譜はシャープが5つもついた上級楽譜しかないようなので、ちょっと無理かなぁなどとも考えています。

代表執行役CEO  奥野 政樹

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