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声出して行こう!

2018年07月01日

前にも書いたかもしれませんが、私にはあまり感心されない傾向にある趣味がありまして、日曜日の午後は大概地元の雀荘で麻雀を打っています。一般にフリー雀荘と言われるもので、その時居合わせた見ず知らずの人と麻雀を打つわけですが、その店には長らく通っていることもあり、見ず知らずと言っても常連さんは顔見知りになってしまっていて、私も「奥ちゃん」などと呼ばれています。

 この雀荘の社長がやり手で、顧客マネージメントや新規開拓のマーケティングを熱心にやっているためお店はかなり流行っており、老若男女、様々な人で賑わっています。ただ面白いことに、始終顔を合わせて卓を囲んでいてもお互いの素性は殆ど知りません。水商売風、自営業風、サラリーマン風、無職風、学生風、色々な人がいます。そしてお互い何も話さず黙々と打っているのかと言うと、そんなこともありません。総じてオジサン系は「俺って凄いだろう」的ジジィ放談が多いし、オバチャン系は麻雀そっちのけで世間話をしています。オバチャン達からは「奥ちゃん、子供いるの?」みたいなことを聞かれることはあります。しかし、もう何年も通っていますが「奥ちゃん、仕事は何しているの?」と聞かれたことは一度もありません。まあ、大体こういうところに通っている人にそんなことを聞いても、お互いあまり愉快なことにはならないというところでしょうか。

元来、麻雀というのはあまりプレイ中に話すことを良しとしないゲームです。なぜかというとトラブルのもとになるからです。「あー馬鹿だった、こんなリーチしちゃって」。こういう発言があると、相手は手が安い、待ちは悪いと読んで突っ込んできます。それが打ち込んで手が開くと実は高得点の多面待ちだと、フェアプレー感が著しく損ねられるわけです。こういうのを口三味線と言います。

 それでも、客層としては総じて個性的な人が多いせいか黙って打っていられないようで、どうしても喋る。そして案の上トラブる。お店側も再三「必要のないおしゃべりをしないでください」と注意喚起しているわけですが、お喋りは止まらない。そんな中にSさんというちょっと面白い人がいます。

 彼は、大きな手を振り込んで、劣勢に立たされたりした時によく、「よし、声出していこう!」などというまるでお店のルールをないがしろにした発言をします。また、「オーケー、リーチだ、一発つも、バッチ来い」などという余計な発言も多い。時には「アツコイチャ、バッチ来い」などとも言っているので、常連客の間では「アツコイチャ」というあだ名もつけられています。ちなみに「アツコイチャ」とは「熱くて濃いお茶」という意味で、「バッチ来い」は、要は「くれ」ということです。

ある日、「おい、アツコイチャ、バッチ来いって何だよ?」と誰かが聞くと、「基本用語でしょう」と彼が適当に答えていたので、私が代わりに「野球用語で、バッター、打てるもんなら打ってみろって意味じゃないの」と答えてあげました。するとそこにいた皆が、「奥ちゃん、スポーツなんかやるの?」と意外そうにしていました。野球ではありませんが、実は私は高校時代にバレーボールをやっており、「バッチ来い」は使わなかったものの、「声出して行こう!」の方は馴染みがあります。ただ、これがどうも当時からしっくりこない言葉だったのです。バレーボールの場合、サーブレシーブの時はセッターとのサインでどういうアタックに入るかを決めますが、ラリーに入るともう声で指示を出すしかありません。「ワンテ(クイックにワンテンポ遅れて入る時間差攻撃)」とか、「切り込み(セッターの後ろから前に切り込んでくるセンター攻撃)」と大きな声でセッターに指示をする。これは仕方がありません。しかし、ミスをした時などにチームメイトが一斉に駆け寄ってきて、「声、出して行こうー、ファイト、ヨ、ファイト、ヨ、ファイト、ヨー」などとやられるのは正直あまり気分が上がるものではありませんでした。プレイヤーだけでなくベンチも声を出している。1年生にとって「声出し」というのは仕事の一つになっており、練習中とにかく何か叫んでいなければいけない。どうも私はこれが苦手でした。

それをこの齢になって、雀荘で再び聞くことになるとは思いませんでした。おそらくアツコイチャはスポーツ経験などなく、これらの言葉をテキトーに言っているだけなのだと思います。年齢は43歳とのこと。聞かれてもいないのによくそう叫んでいるからそうなのでしょう。そしてなんと驚いたことに、この間「バッチ来いを会社でも流行らせた」と言っていました。どうやら会社員らしいのです。ツイていると調子に乗って実にうるさい、一方、ちょっとツカなくなると途端に不機嫌になってふてくされる。フリードリンクなのをいいことに飲みもしない飲み物を脇机に大量に並べ、店員に注意されてもどこ吹く風。かなり突っ込みどころの多い人物ですが、子供じみていて嫌味が無いせいか不思議とさほど嫌われてはいません。

会社でもさぞかし気分屋で、予測のつかない自己中心的な言動を繰り返して周りを混乱させているのだろうと思います。けれどもこの人物に乗せられて、みんなが「営業会議、バッチ来い!」だの「苦情対応、声出していこう!」などと言っている会社なら、少なくともブラック企業ではないのだろうなとも思う私でした。

 

代表取締役 CEO  奥野 政樹

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