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新しい面談施策

2018年08月01日

当社では長年、半期に一度の社員評価面談をやってきましたが、どうもこういうのは流行らなくなってきているらしい。評価に関わらず、本来主観的なものをなんとか客観化するのが合理的などという考え方がしばし横行していたわけですが、ここに来て、客観化なんて主観以上に的外れでトンチンカンだということにみんな気づいてきたというところでしょうか。そこで何か新しい面談施策でも考えてみようかと思い、まずはアイディアを社内公募してみたものの一向に何も出てきません。集団面接とか、部下による上司の逆面接、あるいは被面接者が面接者を指名する逆指名面接なども考えてみましたが、どうもノリが悪い。

 まあ、面談なんてされる方にとっては面白くも何ともないので当たり前かと思い、私的に最近ちょっとした小金が入ったこともあって、ここから少しインセンティブを出すことにしました。まず全社員を3つのグループに分ける。各グループにディレクター、マネージャー、担当者をバランスよく配置し、なるべく普段あまり仕事で関わらない人達を組み合わせるとともに、各グループに当社の各職種を担う人がすべて入るようにした。つまり3グループは各々、ディレクターを社長に、営業・マーケティング、技術、カスタマー・サポート、財務、法務部門を持つミニINAP Japanになるようにしたわけです。

そして、各グループに当社の眼前の課題、“ある新サービスの導入をモデルにしたケース・スタディー”を提示して、3週間程度の検討を経た後、私の前でディスカッションして12月までのアクション・プランを作ってもらうことにしました。とは言っても、このケース・スタディーが実に曲者で、わざと本来の目的を読み違えるように書かれています。冒頭に「EBITDA比率を上げることが当社の目下の課題」と書かれているのですが、このEBITDAという用語が慣れない人にはいかにもミステリアスであり、また知っている人にはどうしても教えたいという気持ちが騒ぐ魔物であって、どうしても「あぁ、EBITDA比率を上げるにはどうしたらいいかというお題ね」と勘違いするようになっているのです。またケース・スタディーの中には、そんじょそこらの法務担当ではおそらく気が付くこともできない高度な法的論点がしれっと隠されており、これがまた人々を眩惑する要因となっています。

 そして、“優勝したグループには賞金が1万円が出る”としましたが、これにしても評価基準が全くわからない。更にもっとわからないのは、“各グループに活動資金を3万円ずつ渡すので金庫番を指定して取りに来るように“とあることです。一体このお金はどのように使うことを求められているのか、何の説明もないわけです。

この課題を作った私にはもちろんいくつかの意図があります。ひとつは会社の業務に近い実践的なお題に各チームが各々の持つリソースを活かし合い、チームとして対応する経験をさせること。この課題をEBITDA比率を上げることだと考えると、それを知らない者は出る幕がなくなりますが、新サービスを立ち上げるための今年度の活動計画を作ることだと正しく把握できれば、財務担当だけではなく法務、営業、マーケティング、技術、カスタマー・サポートの各観点からの考察が必要になります。つまりすべてのメンバーに主役になるポイントが用意されています。そして議論を成功させる一番のカギ、それはチーム内での“意思決定の仕組み”をまず確立させることです。

 3万円の活動資金はそのために渡すのです。使い道としては色々と考えられるはずです。まず一番ありがちなのが、チーム・ビルディングのために懇親会を開く。あるいは、EBITDAを理解するための勉強本を買うというのもあるのかもしれない。しかし何をするにも、チームでどう使うかを決めなければいけないわけですが、日常業務を抱えながら常に話し合いをして、全員一致で決めるのでは埒があきません。何らかの仕組みのもと誰かに支出権限を与えなければ、このお金は使いたくても使えないのです。

結局、このお金を誰も受け取りに来ませんでした。そう、誰も責任者にはなりたくないのです。このお金は、そのうちすべてが終わったらお疲れ様会にでも使えばよい。どうしてもそういう日和った考えが蔓延するのが手に取るようにわかります。まあ、予想通りではありましたが、私の方も打開策を用意してありました。まず、“期限までに受け取りに来なければ口座管理料を一日千円いただきます”と宣言しました。黙っていると、3万円は一日ずつ意味もなく減っていくということです。案の定、各チームで最初からこの人しか適当な人がいないだろうと目される人が慌ててお金を受け取りに来ました。

 

更に私は、強烈なお金の使い道を用意していました。それは、私が財務・法務・プロジェクト管理のコンサルタントを有料で請け負うということです。そもそもこれを使わなければ少なくとも法務の問題は解決できないように設計してあるわけで、適切なコンサルタントの使い方というのを体験してもらうために仕組んだことです。しかし、これよりもっと大切なのがプロジェクト管理です。この施策の特徴は、何をすべきなのか、目的は何なのか、そもそも事例の中に情報が少なすぎて状況がよくわからないという不確実性です。この情報はすべて設計者である私が握っています。これを私は売る。つまり情報はお金で買えるということであり、ここに投資をすれば優勝賞金が手に入る可能性が高くなる。つまりこれは投資とリターンなのです。ただ、最高リターンが1万円だと、3万円を使わずにじっと持っていた方が得と言う考えにもなりそうなので、ここで優勝賞金を3万円に引き上げたのです。

 これで私というコンサルタントの取り合いになるかなと思ったところ、結果的に契約してくれたのは1チームだけ。しかも激しく価格交渉され、予定していた額の半額で独占契約をさせられたので、見込んでいた額の半分にも満たない9千円しか回収できませんでした。それでもお金をもらった以上、法的問題の解説も含め、この課題の意図や、またケース・スタディーには詳しく書かれていないサイド情報を伝えました。残り2チームのうち1チームは、コンサル契約はしてくれなかったものの、“コンサルタントとの懇親会”と称して私にうなぎ弁当をごちそうしてくれましたので、専門的なことまでは教えませんが、ある程度のニュアンスを含んだ会話はしました。そして残りの1チームは本番まで全く私に接触をしてきませんでした。

そして本番の日。1時間半のチームディスカッションの後、私がその場で初めて開示した採点基準に沿って一緒に採点しました。結果は、やはりしっかりと情報に投資をしたチームの圧勝です。うなぎをごちそうしてくれたチームもいい線はいっているのですが、やはり専門的なことの把握が足りない。現実の世界でも、やはり外部の専門コンサルタントを適切に使うということは問題の解決に不可欠なことなのです。そして情報から隔絶された状態で完全に独自路線を進んだ最後のグループですが、見事に罠にはまり、EBITDA比率を上げるための革新的というかやや非現実的な方策を、本来の課題とは関係なしに何やら楽しげにディスカッションしています。しかし残念ながら、私の定めた採点基準に沿って採点すれば限りなく0点に近くなります。ところがこのグループはなんと、活動資金の3万円で足が出るほどの高級ランニンググッズを私にプレゼントしてくれたのです。足が出たとなるとかわいそうなのと、各チームそれぞれに面白いディスカッションだったので、結局2位と3位にも特別賞として1万円ずつ出すことにしました。現実の世界でも、情報に振り回されるよりも自らが設定した目標の達成に向けて“空気を読まない努力”を続けることが報われる場合もあり得るのであり、そもそも当社自体がそういう傾向がありますので。

 

代表取締役 CEO  奥野 政樹

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